大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 平成5年(ネ)130号 判決

第一審原告

田代明

ほか一名

第一審被告

太賀博泰

主文

一  第一審被告の控訴を棄却する。

二  第一審原告らの控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  第一審被告は、第一審原告らに対し、各金七六五万〇〇九四円及び内各金六九六万〇〇九四円に対する平成二年五月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その二を第一審原告らの負担とし、その余を第一審被告の負担とする。

四  この判決の第二項の1は仮に執行することができる。

事実及び理由

一  第一審原告らは、「原判決中、第一審原告ら敗訴部分を取り消す。第一審被告は、第一審原告らに対し、各二〇三七万五一四九円及びうち各一九二七万五一四九円に対する平成二年五月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決を求め、第一審被告は、「原判決中、第一審被告敗訴部分を取り消す。第一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。」との判決を求めた。

二  本件事案の概要等は、原判決二枚目表一一行目の末尾の次に「なお、由里子はシートベルトを着用していなかつた。」と加えるほかは、原判決の「事実」欄に摘示されているとおりであるから、これ(原判決二枚目表初行目から四枚目表四行目まで)を引用する。

三  争点についての当裁判所の判断

1  争点二(損害)についての判断は、原審の説示するところと同一であるから、これ(原判決七枚目表末行目から八枚目裏三行目まで)を引用する(ただし、原判決七枚目裏初行目及び四行目の各「前記認定の事実を総合すれば、」を、いずれも削除する。)。

2  争点一(過失相殺)を判断する際の前提となる、本件事故の態様についての当裁判所の認定は、原判決四枚目表八行目から六枚目裏五行目までにおける認定と概ね同一であるから、次のとおり改めるほかは、これを引用する。

(一)  原判決四枚目表八行目の「甲一ないし八、一二ないし一七」の次に「二七」を加える。

(二)  同五枚目表初行目から同二行目にかけての「追従してくる見知らぬ普通乗用自動車に気をとられながら、」を削除し、同八行目から同九行目にかけての「後記事故態様から推測して」を、「被告車と松本車の衝突の激しさ、その後の両車の動きに照らして」と改め、同一〇行目冒頭の「用する。」の次に、「なお、第一審被告は、右のように高速で走行した理由について、追従してきたスカイライン車が意図的に接近してきたため、これを振り切るために加速したものである旨、捜査官に対して供述しているが、この点は、当審における本人尋問においてはかなり曖昧になつている上、甲二七号証(被告車に追従していた加藤博文の公判廷における供述調書)に照らせば、第一審被告がいうような追従車があつた事実は認められない。また、第一審被告は、当審における本人尋問の中で、衝突直前の被告車の速度計は時速三七キロメートルを指していた旨供述するけれども、今まさに衝突するという場面で咄嗟に自車の速度計を確認したなどということはたやすく信用することができず、加えて、本件事故の激しさからしても、衝突時の被告車の運動エネルギーは相当大きかつた(したがつて、その速度は依然としてかなり高速であつた)ものといわざるを得ないから、右供述は採用することができない。」を加える。

(三)  同六枚目表末行目の「シートベルトを着用していなかつた」を削除する。

3  争点一についての判断

(一)  第一審被告は、由里子がシートベルトを着用していなかつたことを過失相殺事由として斟酌すべき旨主張するが、右は、由里子が衝突の衝撃で車外に投げ出されて死亡したという前提に立つた上での主張であるところ、由里子の死亡状況は前記2で認定したとおりであるから、右主張はその前提を欠くものであり、また、右認定の状況下では、由里子がシートベルトを着用していれば死亡せずに済んだということもできないから、右主張は採用することができない。

(二)  右2で認定したところによれば、第一審被告には、都内の交通量の多い道路で、制限速度(五〇キロメートル毎時)をはるかに超える時速九〇キロメートルもの高速で走行し、かつ、Uターンするために自車進路に進出してきた松本車を前方に発見しながら、自車の通過を待つてくれるものと軽信して、直ちに速度をゆるめるなどの適切な措置をとらなかつたという重大な過失があり、また、松本にも、交通量の多い危険な箇所で自車をUターンさせるに際し、反対車線上を走行してくる自動車の有無を注視しなかつたというこれまた重大な過失があるものといわなければならない。

このように、両者の過失はともに重大であるが、その危険性という点に着目する限りは第一審被告のそれの方が格段に大きいものというべく、結局、第一審被告と松本の過失割合は、六対四と認めるのが相当である。

(三)  しかしながら、松本と由里子は約三年前からの恋人同士である(甲一〇、乙四、五)とはいえ、未だ正式の夫婦ではないのであるから、由里子が死亡したことによる損害賠償を請求する本件訴訟において、松本の右過失を直ちに被害者側の過失と捉えて過失相殺をすることはできないと解すべきであるが、本件事故は、両名がホテルで待ち合わせてデートした後、松本が由里子を同女宅に送る途中に発生したものであること(乙四、五)、前記のとおり松本の過失も重大であることなどの事情に鑑みれば、なお衡平の見地からして、過失相殺の規定を類推適用し、結局、前記1の損害額から一割を減ずる限度で松本の過失を斟酌するのが相当である。

4  前記1で認定した損害の合計額は五五〇五万八七六七円となるところ、その二分の一である第一審原告らの損害額は各二七五二万九三八三円となる。

そこで、前記3の理由により、その一割を減ずると、各二四七七万六四四四円となり、これから第一審原告らが受けた填補額各一七八一万六三五〇円を控除すると、各六九六万〇〇九四円となる。

5  右認容額、本件訴訟の難易度及び審理状況などに照らすと、第一審原告らが同代理人弁護士に対して支払を約したという認容額の一割の範囲の弁護士費用(各六九万円)は本件と相当因果関係のある損害と認められる。

6  以上によれば、第一審原告らの本訴請求は、第一審被告に対し、各七六五万〇〇九四円及びこれから弁護士費用を控除した各六九六万〇〇九四円に対する本件事故後である平成二年五月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があることになる。

そうすると、第一審被告の控訴は理由がないが、第一審原告らの控訴は右の限度で理由があるから、原判決は右のとおり変更されることを免れない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 鍋山健 小長光馨一 西理)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例